05 December 2010

英国法人税改革

英国財務省のロードマップに接した。
すでに2011年に,国外支店所得免除の導入が確実である。
これに加え,企業競争力確保のために,強いメッセージを出している。
*徐々に法人税率を24%まで下げることを確約
*知的財産の重要性に鑑みて10%で課税するpatent boxを設ける

かくして,グローバル経済に向き合って,政治的リーダーシップを発揮する。
そしてそのことで,法制度のinnovationをまきおこす。

もちろん,法人税改革のこのような方向性は,賛否両論のある問題である。
だからこそ,議論して方向を決めないといけない。
これができず,何事も「決められない」日本。
今のルール・メイキングの固着した状況はどういうことか。
森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』(1999)は,結局あたっていたのか。

04 December 2010

さいたま地判平成21・11・25

みなし配当の根拠条文の規定振りに不思議な点があることを気づかせる判決だ。

所得税法25条1項は,会社が自己の株式を株主から取得し,個人株主が「金銭その他の資産の交付を受けた場合」,一定金額を剰余金の配当とみなしている。では,個人株主が,会社から借金をしていて,その債務の免除を受けた場合,みなし配当のこの規定は適用されるか。

この点につき,裁判所は,「ここに『金銭その他の資産の交付を受けた場合』には,金銭その他の資産の交付のみならず,同様の経済的成果をもたらす債務の消滅等があった場合も含む」と解している。この場合,会社側の利益積立金額の処理はどうなるのだろうか。

28 October 2010

Berkeleyのペーパー

Proceedings from the 2009 Sho Sato Conference on Tax Law, Social Policy, and the Economyが,このウェブサイトに掲載されました。

17 October 2010

最判平成22・3・2民集64・2・420(ホステス報酬の源泉徴収)

パブクラブを経営する者がホステスに報酬を支払う場合,その支払い金額から「政令で定める金額」を控除した残額に10%の税率を乗じて計算した金額が源泉所得税の額となる(所法204条1項,205条2号)。ここにいう「政令で定める金額」は,「同一人に対し1回に支払われる金額」につき,「5000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」である(所令322条)。

最高裁は,「ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合においては,施行令322条にいう『当該支払金額の計算期間の日数』は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指す」と判示した。その理由は,「当該支払金額の計算期間の日数」が,当該支払期間の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然である,というところにあった。

このような問題については,機敏に立法的対処を行うべきことがらではないか。もし立法政策の問題として稼働日数を基準にするのが適切であるというのなら,法令にそう書き込めばよい。そして,そのような立法政策をとるべきか否かこそが,真剣に議論すべき点であろう。一般的に,雇用関係が流動化・多様化し,精密な源泉徴収に依存できない場面が増えている。現行ルールでは,一方で,計算期間の日数に応じて一日あたり5000円ずつの控除といったこまかい計算をする事務的な手間が,源泉徴収義務者に生じている。他方で,ラフな源泉徴収で足りるとすれば,報酬受領者個人の申告に精算をゆだねる部分が増え,納税協力コストが増大する(見方を変えれば申告漏れの可能性もある)。このあたりを勘案して,制度を改善していくことが,本筋である。

01 October 2010

東京地判平成21年9月17日(株式評価・連結加入時の法人税額控除)

次の場合の株式評価をどうするか。7月21日に一株あたり30万円で第三者割当を行い,10月末に上場承認,11月にブックビルディングしていたときに75~100万円,12月の上場初値が240万円だった。東京地裁は,総合判断により,結論として100万円でいいとした。

興味深いのは,裁判所「判例検索システム」の「裁判要旨」が,株式評価にあたって法人税額控除を与えなくてよいとした部分に,裁判例としての意義を認めているように読める点である。連結に加入する時点で,これまでの単体の生活をいわば身ぎれいにして清算し,フレッシュ・スタートをとらせる,という税制との整合性はとれているのであろうか。

18 August 2010

山岳ヘリコプター出動は税金で費用負担すべき公共財か

2010年8月12日朝日新聞11面は,羽根田治氏による山岳救助費用有料化の提案についてのインタビュー記事。記者との間でdebateのようになっていて,読み応えがあった。

ヘリコプター救助を受けた人が費用を負担すべきか,租税の形で納税者全員が負担すべきか。これは,国家が提供すべき公共財の範囲にかかわる。さらに,自己責任という言葉の意味を考えさせられる。

この記事に対する羽根田氏のコメントはこれ。関連する論考はこれ

12 August 2010

Theoretical Inquiries in Law

イスラエルから,Comparative Tax Law and Cultureと題する雑誌特集号が届いた。
Theoretical Inquiries in Law Volume 11, Number 2 (2010)である。
日本の図書館には入っていない雑誌のようであるが,ここでみることができる。

17 July 2010

福岡高判平成21・7・29(太陽の保険料)

個人納税者(X)と訴外法人(太陽)が各2分の1ずつ保険料を負担した養老保険契約につき,Xの受け取る満期保険金に係る一時所得の計算に際して,法人負担分も含む保険料総額を控除できるか。福岡高裁は,福岡地判平成21・1・27判タ1304・179を維持し,控除できると判示した。この事案で,Xの一時所得の算定上法人の保険料負担分は損金算入されていたが,Xへの給与所得課税はされていなかった。よって,法人とXとでダブルに控除ができることになる。上告中。

本件では何よりも,法令の書き方が問題。所得税法施行令183条2項2号は,生命保険契約に基づく一時金が一時所得となる場合,保険料又は掛金の「総額」を,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」に算入すると定めている。

この事案ではXが生存していたため,Xが満期保険金を受け取った。仮にXが死亡していたとすれば,太陽が死亡保険金を受け取っていたはずである。この点に着目すると,保険を用いることで,所得の人的帰属に変更が生ずることがわかる。イメージを具体化するために,パートナーシップ課税と簡単に比較してみよう。たとえば,Xと太陽が組合契約を結び,それぞれが1億円を拠出する。組合がこの2億円をもとでにしてリスキーなビジネスをした結果,リターンが5億円生じた。この5億円を,ジャイアンツが勝てば全額Xが受け取り,ジャイアンツが負ければ太陽が全額受け取る,という契約内容だったとしよう。組合課税の世界では,5億円のリターンを,契約どおりにXか太陽かのいずれかに全額配賦することに対しては警戒の念が強く,「経済的合理性」を審査するといった解釈論が有力である。これに対し,本件の養老保険では,この点がほとんど問題とされていないように見受けられる。興味深い現象である。

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(2013.02.02付記)
最判平成24・1・13民集66・1・1は控除を認めなかった。同旨,最判平成24・1・16判時2146・58。

03 July 2010

大阪高判平成21・10・30(神戸市の充当事件)

原審大阪地判平成20・10・14判例自治318・20のコメントが強烈。いわく,「公売処分手続において恣意的に配当をしてきたY市の租税の徴収方法を否定したものであり,同様の徴収方法を行っている他の地方公共団体に対して警鐘を鳴らす重要な裁判例である。」

Y市側は,公売手続における配当や充当について公定力を理由に不当利得返還請求訴訟ができないと主張した。しかし,この点については,すでに最判平成3・3・22民集45・3・322が,取消訴訟なくして直接に不当利得返還請求ができる旨を判示していた。そうであるのに,Y市側は,どうしてこのような主張をしたのだろうか。自治体法務の改善についてはいろいろな提案がされているが,訴訟に至った場合の先例との整合性チェックなど,工夫ができないものか。

地裁と高裁は,次の論点について異なる判断を下している。裁判所による配当が古い年度の租税債権についてされた場合に,新しい年度の租税債権に充当できるか。法定納期限を基準に担保権者との優先劣後関係を決するから,新しい年度の租税債権に充当すれば本来は劣後したはずの租税債権の満足を得られるし,その分だけ古い年度の租税債権が生き残って私債権者に優先することになる。地裁は,地方税法14条の10,国税徴収法16条等の趣旨からして,どの年度の税に充当するかは課税庁の裁量によるものではないとした。これに対し,高裁は,民法489条3号の法定充当の適用はなく,いずれに充当するかは課税庁の裁量に任されていると判示した。最高裁は上告不受理。

21 June 2010

タックスヘイブン関係の新刊

TAX HAVENS: How Globalization Really Works (2010, Cornell Univ. Press)
Ronen Palan; Richard Murphy; Christian Chavagneux

これはoffshore financial centers(OFCs)がneo-liberal globalizationの枢軸になっているとして批判する陣営による書物。OECDのTIEA締結攻勢が生ぬるいと指摘。OFCsをsecrecy jurisdictionsと呼んで,多国籍企業に会計開示を義務付けるべきだという。戦線を同じくするNPOのサイトはこれ

19 June 2010

東京地判平成21・5・28(CFC税制と来料加工)

 香港子会社の主たる事業は卸売業か製造業か。それが問題だ。
 これが問題になるのは,CFC税制の適用除外要件を設定するにあたり,卸売業なら非関連者基準で,製造業なら所在地国基準で,というルールにしたからである。しかし,商社のような場合(卸売業や金融関係,運送関係)についてだけ,事業活動が国際的にならざるを得ないと想定するのは,現在のビジネス・モデルにそぐわないのではないか。現地で真正な事業活動を行いつつ,それが複数地域にまたがる場合について,法令の起草者はよりきめの細かい要件設定を行うべきであった。

05 June 2010

最判平成21・12・3判例時報2070・45(ガーンジー島事件)

この事件の係争年度は平成11年から14年までの期間であるが,States of Guernseyの次の公式サイトによると,2008年以降,かなりの変更がある。
http://www.gov.gg/ccm/navigation/income-tax/about-our-tax-system/

このように,世界に点在するオフショア法域は,環境変化にあわせて自らの税制を変更していく。このような動きを事前に察知し,機動的に国内立法に反映させるための体勢は,整っているのだろうか。日本国は最近,バミューダ(2010年2月署名),香港(同3月基本合意),ケイマン諸島(同5月基本合意)という具合に,日本国はオフショア法域との間で租税情報交換条約を締結してきてはいるものの,より広く,広範な継続的調査→国内立法による対応→種々のルートによる相手側法域との対話,といったプロセスの確立が課題である。Commonwealthの盟主として人的物的つながりの強い英国ほどの対応は望めないとしても,英国の対応から学べることは多そうだ。

30 April 2010

坂野潤治・日本政治「失敗」の研究(講談社,2010)

「明治20年代の徳富蘇峰は10年前の福沢諭吉の思想から何も学ばす,大正3年の吉野作造は明治20年代の徳富の二大政党論を全く知らずに徳富を批判し,昭和33年の信夫清三郎氏は吉野作造の「民本主義」を徹底徹尾曲解して批判した。・・・それぞれの時点で日本の民主化につとめた人々が,自己に先行する民主主義者の努力に全く関心を払わなかったのである。」(43頁から引用)

16 April 2010

大阪地判平成21・1・30判例タイムズ1298・140

平成18年改正前の法人税法施行令134条の2(現72条の5に相当)が,法人税法65条による委任の範囲を逸脱しないとされた事例。上告審で係争中。

施行令のこの規定は,法人税法22条3項2号の規定内容の技術的・細目的事項を定めたものといえるか。令134条の2は,使用人賞与について,一律に損金算入時期を規律している。判決は,施行令のこの規定が,法22条3項2号の定める債務確定基準と異なる基準を意味する場合がありうることを認めている。例えば,債務の確定日と賞与の支給日がズレており,しかも,施行令によると支給日が基準とされるような場合である。にもかかわらず,判決は「法律において課税要件等の基本的事項を定めた趣旨を損なわない範囲において,課税の公平及び徴税の適正等の確保の見地から,これと異なる規律を設け,もって課税の明確性,統一性を計ることも,当該基本的事項についての技術的,細目的な定めとして,租税法律主義の要請に抵触せず,許容される場合がある」と判示し,結論において22条3項2号の規定内容の技術的・細目的事項にあたるとした。法律の定める枠内にとどまっているとみたわけである。

使用人賞与についていかなる場合に債務の確定があったとみるべきかは,法22条3項2号の解釈として必ずしも一義的に定まるものではないから,より明確なルールを設けておくことが望ましい。従って,一般論としていえば,令134条の2のようなルールを設けることは,必要なことといえよう。だが,法律の定めるところと異なる規範を定立している部分があれば,その部分については委任の範囲を超えているとみるのが,理屈の建て方としてはすっきりしているのではないか。

06 April 2010

永久信託増加の原因

Schanzenbach and Sitkoff論文に対する岡村教授のコメントが,何ともするどい(2009アメリカ法147頁)。相関関係と因果関係は違う。人が何をしたかと,何をしたかったかも,違う。さても,実証的な議論は,おもしろくも,むずかしい。

03 April 2010

東京高判平成21・5・20

譲渡所得か不動産所得か。余剰容積分の容積を利用させることの対価を個人が受け取った事案で,譲渡所得ではなく不動産所得にあたると判断した。連担建築物設計制度の下で当事者がどういう合意をするかによって権利の内容は異なってくるから,あくまでこの事例についての判断である。ただし,所得税法施行令79条1項所定の事由を限定列挙と解している点が興味深い。同令で譲渡所得とみなすことが平準化のためだとすると,事案の判断にあたっては,①平準化すべき経済実態を備えているか,②取得費や保有期間のルールがしっくり適用できるか,といった観点も重要。