19 July 2016

Brexitに関する見立て

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成28年7月15日(金曜日))が、次の問答を記録していた。最後の段落の見立て自体、玄人らしくて面白い。また、記者会見の途中で途中で問と答の立場が形式的に入れ替わっているように見えるあたり、かなり実質的な対話が成立している感じがする。


問)
 来週の話ですけれども、来週、中国の成都でG20の財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されます。前回の開催以降、イギリスの国民投票でイギリスがEU離脱を決めるなどといった大きな出来事もあったわけですけれども、今回の会議でどういったテーマでどのような議論がなされるのか、見通しや大臣としてこうしたことを取り上げたい等、お考えがあればお聞かせください。
答)
 ヨーロッパとイギリスとの間にいろいろな確執があるのは今に始まった話ではありません。加えてフランス、イギリスとの間もいろいろ昔からの話ですから、そういった話が急にすんなりなんていう話ではないのだとは思っていますけれども、いずれにしてもイギリス側からの説明があるでしょうし、イギリスも財務大臣が代わりますからそれなりの説明が向こうの方からあるのだと思いますが、(中略)。これらの方がどういう話をするのかよくわかりませんけれども、法案として提出するのでしょうけれども、議会はR、リメインの方がリーブのLより多いということになると法案は否決されるかもしれません。そうしたときはどうするのか。国民投票ではLでした、しかし国会でみんなで投票したらRでした、こういう場合どうなるのか。
問)
 国民投票には法的な拘束力はないということなので、結果が変わる可能性もあるのではないかと思います。
答) 拘束力がないからですか。
問)
 必ずしもEUから出るということが決まっているわけではないと思います。
答)
 内閣総理大臣としてLで提出した、国会はRだといって否決となれば、与党の法案を総理大臣等が国民投票に基づいて出した法案を、本人はR希望な人が総理大臣になっているのだけれども、出したものが否決されれば常識的には解散することになる。解散したらもっとRが増えましたので、選挙後にもう1回再投票した結果、やっぱりRでしたといったらイギリスはどうするか。多分、何もしない。政府はLと言ってEUに通告したことは1回もない。イギリスとフランスは、今するようにと言っているけれども、していない。何年かかるかわからないという話をして、結果的にRになりましたといったら何が残るのだろうか。一番よかったというのはポンドが安くなったということではないか。介入せずしてポンドだけが安くなった、ハッピーな人が多いのではなか。高等な戦術だと言うけれども、そこまで考えてやっているとは思えないけれども、結果論としてはそういうことになり得る。これは外国人の、いわゆるEUの議員でもみんな予想しているから、あり得るのではないか。だからポンド安になった。それだけというのがあの大騒ぎの結果だと思います。だから何が起きるかわからないと思ってはいますけれども、いろいろなことに対して我々はきちんとそういったものと、EUの中にいるわけではありませんから、そういった影響がアジアなり、また外国に及ぶ部分を最小限に抑えてやっていかなければいけないということになるのだとは思います。今からまだまだわからない話が多過ぎますので、G20ではその種の話を、ほかのところがどうやってEUの話を、もしくはイギリスの話をどうやって聞いていくかというところが一番、報告をまずは聞いてみないと、直接G20の会議で聞いてみるということになるのではないか。

14 July 2016

2015年の米国への海外直接投資は68%増

この記事によると、増加のひとつの要因がインバージョンだった。

  • 既存企業の買収が4081億ドル
  • 新企業の設立が112億ドル
  • 残る14億ドルは外資企業の米国拠点の拡張によるもの

13 July 2016

学生諸君、講義中のノートPCは使用を禁ずる

WSJのこの記事には、はげしく同意せざるをえない。

さらに参照、【ノートパソコンでノートをとっている学生たちは手書きでノートをとっている学生より成績が悪い傾向にある

「書く」というプロセスが情報を記憶に深く焼き付ける

手書きで講義ノートを取る学生の成績は、パソコンに打ち込む学生よりも良いことが判明した(英語音声、英語字幕あり)

日経新聞の税金考が、書籍化されていた

08 July 2016

21世紀政策研究所の今年の報告書が公表されていた


提言


第1 章 BEPS プロジェクト最終報告書の総括と今後の展望 ..... 青山 慶二 1
1.はじめに................................................................................................................... 1
2.最終報告書の理念と構成について ........................................................................... 2
3.今後の展望 ............................................................................................................... 5

第2 章 BEPS 行動8~10:移転価格税制(総説) .................... 岡田 至康 7
1.概説 .......................................................................................................................... 7
2.無形資産................................................................................................................... 8
3.所得相応性基準 ...................................................................................................... 12
4.リスク .................................................................................................................... 14
5.否認 ........................................................................................................................ 16
6.その他の租税回避の可能性の高い取引に係る移転価格ルール .............................. 17
7.今後の対応 ............................................................................................................. 18

第3 章 行動計画8~10 : 移転価格税制(利益分割法と関連する諸問題)
...................................................................................... 山川 博樹 21
1.はじめに................................................................................................................. 21
2.今般の利益分割法の議論を巡る背景 ...................................................................... 22
3.BEPS プロジェクト最終報告書の利益分割法に関連する議論 ............................... 23
4.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の概観 ............................................................... 26
5.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の考察 ............................................................... 30
6.まとめ .................................................................................................................... 40
<参考> ...................................................................................................................... 43

第4 章 行動7:PE 認定の人為的回避の防止 ........................... 浅妻 章如 47
1.PE の範囲が問題になることの国際租税法全体の体系との関係 ............................ 47
2.代理人PE 認定の人為的回避 ................................................................................. 52
3.準備的補助的活動 .................................................................................................. 54
4.細分化・契約分割 .................................................................................................. 55

第5 章 租税条約の濫用防止に関するBEPS 最終報告書
―米国の動向と我が国の対応のあり方― ..................... 一高 龍司 57
1.はじめに................................................................................................................. 57
2.OECD モデル条約における対処の経緯と現状 ....................................................... 61
3.最終報告書のポイント ........................................................................................... 65
4.米国の動向 ............................................................................................................. 75
5.おわりに................................................................................................................. 84

第6 章 有効なCFC 税制の構築(BEPS プロジェクト行動3)
―CFC 税制を再検討する上でのいくつかの論点― ...... 渡辺 徹也 87
1.はじめに................................................................................................................. 87
2.報告書の概要 ......................................................................................................... 87
3.CFC 税制の趣旨 ..................................................................................................... 89
4.コンセンサスの欠如 ............................................................................................... 94
5.報告書を受けて(日本の制度及び企業の今後) .................................................... 98
6.おわりに............................................................................................................... 100

第7 章 BEPS 行動計画3(CFC ルールの強化)及び行動計画6(租税条約の
濫用防止)に係る事例研究 ......................................... 高嶋 健一 103
1.行動計画3 CFC ルールの強化 .......................................................................... 103
2.行動計画6 租税条約の濫用防止 ........................................................................ 134

第8 章 行動4:利子の控除制限 ....................... 原口 太一・上田 滋 147
1.はじめに............................................................................................................... 147
2.BEPS 行動計画における内容・目的 .................................................................... 147
3.BEPS 行動計画が公表される前のOECD における議論 ...................................... 148
4.BEPS 行動計画の公表後から最終報告書の公表までの経緯 ................................ 151
5.最終報告書の概要 ................................................................................................ 153
6.ベストプラクティス・アプローチと本邦現行税制との比較 ................................ 156
7.ベストプラクティス・アプローチが我が国の経済活動へ与える影響 .................. 159
8.おわりに............................................................................................................... 161

04 July 2016

バウチャーのVAT取扱いに関するEU指令が、採択されていた

Council Directive (EU) 2016/1065 of 27 June 2016 amending Directive 2006/112/EC as regards the treatment of vouchersである。だいぶいろいろな解釈問題がありそうで、教室設例でずいぶん議論できそうだ。

適用対象については
Only vouchers which can be used for redemption against goods or services should be targeted by these rules.
と書いてあって、財やサービスと引き換えるものだけが対象になっている。さらに、
The provisions regarding vouchers should not trigger any change in the VAT treatment of transport tickets, admission tickets to cinemas and museums, postage stamps or similar.
ということなので、運送切符や映画館入場券、郵便切手などには影響しない。

課税ルールは、次の区別による(VAT指令30a条)。一方で、単一目的バウチャー(single-purpose voucher)については
Where the VAT treatment attributable to the underlying supply of goods or services can be determined with certainty already upon issue of a single-purpose voucher, VAT should be charged on each transfer, including on the issue of the single-purpose voucher. The actual handing over of the goods or the actual provision of the services in return for a single-purpose voucher should not be regarded as an independent transaction.
というわけで、引き換える財やサービスのVAT取り扱いがバウチャー発行時に確実に決定できる場合、バウチャー発行時に課税(30b条(1))。

他方で、複数目的バウチャー(multi-purpose voucher)については
For multi-purpose vouchers, it is necessary to clarify that VAT should be charged when the goods or services to which the voucher relates are supplied. Against this background, any prior transfer of multi-purpose vouchers should not be subject to VAT.
という具合に、財やサービスの供給時に課税(30b条(2))。

2018年12月31日よりもあとに発行されたバウチャーについて適用するという。これに間に合うように、EU加盟国が国内法を改正することになる。



03 July 2016

人工知能のインパクト

The Economistのこの記事が19世紀初頭との比較でもって、現代の人工知能が私たちの社会に与える影響を論ずる。仕事のあり方が変わる。しかも急速に。だから、人的資本の形成のやり方や、社会保障システムに、対応が必要だという。

特集記事はだいぶ長いが、2点が印象に残る。
  • 仕事への影響に関する記事は、機械に置き換わる仕事かどうかを決めるのはルーチン作業か否かによるのであり、肉体労働であるか否かによるわけではないという。つまりコンピュータも自前で、定型の頭脳労働ならできるようになるということ。それはそうだろう。囲碁でAIが人間に勝ったことからすると、ノン・ルーチンの仕事ですら果たしてどうなるか。
  • 教育政策に関する特集記事は、個別知識の賞味期限が短くなっていく中で、常に学び続けていけるようにすることを強調。この文脈から、MOOCSのような公開システムが出てきたことの意味がわかってくる。Udacity, Coursera, edXはすべてAIのコミュニティーから出現したわけで、創立者は教育システムのオーバーホールが必要だと信じているという。なるほどね。ただし、最後のあたりでベーシックインカムに触れているところは、この雑誌の最近の主張のくりかえし。

02 July 2016

岡山地判平成26・7・16訟務月報61・3・702(外国子会社合算税制の適用除外を受けるためには確定申告書に書面添付を要する)

岡山に本店のあるゴム・合成樹脂の成型・加工・販売業の会社Xが、香港に子会社Aを置いて、広東の会社Bとの間で来料加工。

国税不服審判所平成24年1月25日裁決は、詳しく事実認定を行い、Aの主たる事業は製造業であり、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえないとして、外国子会社合算税制の適用除外にあたらないとした。X出訴。

岡山地裁の判決は、今度は、確定申告書に租税特別措置法66条の6第6項の書面添付がないという理由で、適用除外を認めなかった。

平成19年改正前の同6項は、次のように規定していた。
第一項各号に掲げる内国法人が第三項又は第四項の規定の適用を受ける場合は,当該内国法人は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しなければならない。
判決は、この規定を次のように解釈した(番号、下線、色付けはすべて引用者による)。
措置法66条の6第6項は,ある特定外国子会社等が適用除外要件を満たすかどうかを判断するに際し,その事業内容,事業に係る取引相手などを適正に審査することが必要になることを受け,同条1項各号に掲げる内国法人に確定申告書への適用除外記載書面の添付等を義務付けることによって,①当該内国法人に適用除外規定の適用を受ける旨の意思を明らかにさせ,②課税庁が適用除外要件該当性の判断の根拠となる資料を当該内国法人から早期かつ確実に収集し,適用除外要件について適正かつ迅速に判断することを可能にするために設けられたものと解されるところ,③その規定文言及び④適用除外要件の判断における上記内国法人からの資料収集等の必要性,重要性に鑑みれば,同条6項は,適用除外規定の適用要件を定めたものと解するのが相当であり,その趣旨は,平成19年改正前の規定文言の下でも既に明らかであったが,同改正によって,より明確なものになったというべきである。
つまり、

  • 6項の趣旨 ①納税者に意思を明らかにさせる、②課税庁が早期確実の資料収集と適正かつ迅速な判断できるようにする
  • 理由 ③規定文言、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性
  • 結論 6項は適用除外要件の適用要件だ
ということ。ここで、③は、既定の文言をじっとにらんで、「これは適用要件だ」という頭で読めば、そう読める。でも、そういう頭で読まなければ、それほど一義的なことではない。なにしろ、「適用を受ける場合は」、書面を添付しなければならないとしか書いてないからである。だから、③規定文言がこうなっていますよ、というだけでは、理由としてはちと弱い。

そういうわけで、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性、というところがポイントだろう。ここで「上記」というのは、②のことをいいかえている、と読める。つまり、②の早期確実、適正迅速というところが効いていて、あとから書面を出してもだめであって、確定申告書に添付しなければ間に合わないよ、といっているのだろう。

これを要するに、平成19年改正の文言が次のように書いてあることを、必ずしもそう明確には書いていない文言の下で、規定の趣旨を補って解釈で導き出した、ということのように思われる。
第三項又は第四項の規定は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り,適用する。
この判決はそのまま確定したようである。もし国税不服審判所の裁決で実体的な適用除外要件について審理していなかったならば、納税者は判決のこの理由だけで控訴を断念しただろうか。