31 October 2015

英国がBEPS行動4と5につき,実施のためのコンサルテーションをはじめていた

2015年10月22日に,英国財務省(HM Treasury)が次の文書を公表し,コメントをつのっていた。すなわち,
である。2015年10月5日にリリースされたBEPS最終報告書をうけて,その枠組みにそくして論点を提示している。

論点として提示されている質問の多くは「ヨコのものをそのままヨコにした」ような印象を受ける。とはいえ,こうしてすぐさま対応をとれるところが,英語が公用語であって,国の内外がシームレスにつながっている国の強み。しかも,翻訳作業なしに「実施に向けて動いていますよ」ということを,他の国々に対して対外発信できるのは,本当に有利なことだ。

日本におけるBEPS最終報告書の説明としては,税制調査会のサイトに,この財務省説明資料がアップされている。これはもちろん日本語による。

28 October 2015

国連の国際租税協力専門家委員会が,年2回になる

2015年10月19日から23日に,ジュネーブでEleventh Session of the Committee of Experts on International Cooperation in Tax Mattersがあった。この文書のパラ13によると,今後は年2回開催にするという。議題は,PEの定義におけるconnected projectsの意義や,extractive industriesの課税(下記リンク)など。

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work presented for approval (and approved) by the Committee:
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guidance note on capital gains taxation and indirect transfers                                  
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a proposal to work on the following guidance notes:
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20 October 2015

18 October 2015

Angus Deatonが2015年ノーベル経済学賞

このひと。需要の推計についてAlmost Ideal Demand(AID) Systemを考えた。また,Milton Friedmanの恒常所得仮説を実証データで覆した。今回の受賞について,AID論文共著者のJohn Muellbauerは,エビデンス・ベースの経済学の勝利だといっているらしい。「らしい」ということを含めて,この記事の受け売りなのですが。

16 October 2015

BEPS2015成果物では,各国がどこまで合意できたか

13本の報告書が,2015年10月5日にリリースされ,10月10日にG20財務大臣会合で承認された。これに関する解説文のパラ11を精読すると,今回各国がどこまで合意できたかが浮かび上がる。

パラ11の原文を引用する(太字は原文による,下線(1)と下線(2)は引用者による)。
11. A comprehensive package of measures has been agreed upon. Countries are committed to this comprehensive package and to its consistent implementation. These measures range from new minimum standards to revision of existing standards, common approaches which will facilitate the convergence of national practices and guidance drawing on best practices. Minimum standards were agreed in particular to tackle issues in cases where no action by some countries would have created negative spill overs (including adverse impacts of competitiveness) on other countries. Recognising the need to level the playing field, all OECD and G20 countries commit to consistent implementation in the areas of (1)preventing treaty shopping, Country-by-Country Reporting, fighting harmful tax practices and improving dispute resolution. Existing standards have been updated and will be implemented, noting however that not all BEPS participants have endorsed the underlying standards on tax treaties or transfer pricing. In other areas, such as recommendations on hybrid mismatch arrangements and best practices on interest deductibility, countries have agreed a general tax policy direction. In these areas, they are expected to converge over time through the implementation of the agreed common approaches, thus enabling further consideration of whether such measures should become minimum standards in the future. Guidance based on best practices will also support countries intending to act in the areas of mandatory disclosure initiatives or controlled foreign company (CFC) legislation. (2There is agreement for countries to be subject to targeted monitoring, in particular for the implementation of the minimum standards. Moreover, it is expected that countries beyond the OECD and G20 will join them to protect their own tax bases and level the playing field.

二つ目の太字部分以下に,まず着目しよう。ミニマム・スタンダードが合意されたのが,下線(1)の4つ,すなわち,条約漁りの防止,国別報告書の提出,有害税制への対抗,紛争処理の改善,である。
(1)preventing treaty shopping, Country-by-Country Reporting, fighting harmful tax practices and improving dispute resolution.
これら4つについては,下線(2)のように,モニタリングを行うことに各国が合意した。ということで,この4つについてが最強度の合意ということになる。

これに対し,
Existing standards have been updated and will be implemented, noting however that not all BEPS participants have endorsed the underlying standards on tax treaties or transfer pricing.
とあるのは,既存のスタンダード,すなわちOECDモデル租税条約や移転価格ガイドラインなどの改訂を指す。必ずしもすべての国が合意したわけではないことが,この文章からうかがわれる。国連の移転価格マニュアル第10章でブラジルがとっていたスタンスなどが思い出される。

続く文章は,ハイブリッド・ミスマッチと,利子費用控除について(下の引用文のイタリックは引用者による)。
In other areas, such as recommendations on hybrid mismatch arrangements and best practices on interest deductibility, countries have agreed a general tax policy direction. In these areas, they are expected to converge over time through the implementation of the agreed common approaches, thus enabling further consideration of whether such measures should become minimum standards in the future.
各国は「一般的な租税政策の方向」に合意した,と記している。そして,それが収斂することが予想され,将来のミニマム・スタンダードにすべきかどうかの更なる検討を可能にする,と述べている。含蓄のある表現だ。

さらに,義務的開示や,CFC税制については,ベスト・プラクティスに基づくガイダンスが出されたと記す。
Guidance based on best practices will also support countries intending to act in the areas of mandatory disclosure initiatives or controlled foreign company (CFC) legislation.

パラ11の読みとしては,こんなところだろうか。近いうちに,交渉の詳細を示す二次文献が出てくるのを待ちたい。

15 October 2015

Second-best Justice: The Virtues of Japanese Private Law

ラムザイヤー教授の新著が出る。このBook Talkによると,日本の司法が過度のコストをかけずに次善のところで効率的に法を動かしていると主張。交通事故の損害賠償額の定型的算定のごとし。

http://www.press.uchicago.edu/ucp/books/book/chicago/S/bo21163304.html

14 October 2015

最判平成27年10月8日(倉敷青果荷受組合事件)

権利能力のない社団(X)の理事長及び専務理事の地位にあった者(A)が当該社団からの借入金債務の免除を受けることにより得た利益が所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に当たるとされた事例

X -----> A

先行して,平成17年7月31日に別の株式会社BからAが借入金債務の免除を受けたときには,所轄税務署長が,平成26年6月27日付け課個2-9ほかで削除される前の所得税基本通達36-17の適用ありとしていた(「債務免除益のうち,債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたものについては,各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しない」)。

その後,平成19年12月9日の理事会で,XがAに対し,借入金債務48億3682万1235円を免除した。所轄税務署長は,平成22年7月20日付けで,Xに対し,債務免除益がAに対する賞与に該当するとして,源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分。その取消を求めてXが出訴。

岡山地判平成25年3月27日税務訴訟資料263号順号12184は,この債務免除益には所得税基本通達36-17本文の適用があるとして,Xの請求を認容。国が控訴。

広島高裁岡山支判平成26年1月30日は,控訴棄却。その理由は,所得税法28条1項の給与等にあたらないというものであった。高裁判決の要旨は,最高裁によって次のようにまとめられている。
XのAに対する貸付金は元本の弁済のめどの立たない不良債権であったところ,平成17年債務免除益に本件旧通達の適用があるとの判断が所轄税務署長により示された後にAの資産の増加がなかった状況の下で本件債務免除がされたことからすると,本件債務免除の主たる理由はAの資力の喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであると認めるのが相当であり,AがXの役員であったことが理由であったと認めることはできない。したがって,本件債務免除益は,これを役員の役務の対価とみることは相当ではなく,所得税法28条1項にいう給与等に該当するということはできないから,本件債務免除益についてXに源泉徴収義務はないというべきである。
国が上告。最高裁は原審を破棄し,事件を差し戻した。まず,次のように述べて,所得税法28条1項にいう給与に該当するという。
所得税法28条1項にいう給与所得は,自己の計算又は危険において独立して行われる業務等から生ずるものではなく,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいうものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁,最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。そして,同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは,上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される。
前記事実関係によれば,Aは,Xから長年にわたり多額の金員を繰り返し借り入れ,これを有価証券の取引に充てるなどしていたところ,XがAに対してこのように多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは,同人がXの理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であり,XがAの申入れを受けて本件債務免除に応ずるに当たっては,Xに対するAの理事長及び専務理事としての貢献についての評価が考慮されたことがうかがわれる。これらの事情に鑑みると,本件債務免除益は,Aが自己の計算又は危険において独立して行った業務等により生じたものではなく,同人がXに対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として,Xから功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付とみるのが相当である。
したがって,本件債務免除益は,所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当するものというべきである。
そして,次のように述べて,事件を差し戻した。
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件債務免除当時にAが資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であったなど本件債務免除益を同人の給与所得における収入金額に算入しないものとすべき事情が認められるなど,本件各処分が取り消されるべきものであるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
地裁で争われていた争点が,再度審理されることになる。その後,平成26年度税制改正で,所得税法44条の2が立法化され,債務免除益に関するくだんの所得税基本通達36-17は削除されている。この最高裁判決は債務免除益の収入金額算入については判断を下しておらず,あくまで給与所得該当性を述べているにとどまるが,果たして民集に載るだろうか?


12 October 2015

来週の駒場ゼミは,この4本

B班のみなさん,事前にコメントがあれば自由にポストしてください。

The Trans-Pacific Partnership
Every silver lining has a cloud (20)
Egypt after the Arab spring
A dud return to democracy (44)
Europe’s migrant crisis
Angela the beleaguered (85)
India and the environment
Greenery by stealth (21)

今日の駒場ゼミはこの4本

The Economist, October 5th, 2015のLeaders5本のうち,2本目から4本目です。


Leaders

The world economy
Dominant and dangerous (120)
Zimbabwe
Act before the tyrant dies (49)
Property taxes
Welcome to New London (22)
War in the Muslim world
Putin dares, Obama dithers (1,168)
Remembering history
Museum pieces (68)


05 October 2015

いよいよ今日が,BEPSプロジェクト成果物の公表日

パリ時間で,記者会見が14時,専門的ウェブキャストが16時。

Live webcast: launch of the 2015 BEPS package