28 June 2015

民主主義は経済成長の原因か

Acemogluたちのこのペーパーが、民主化が長期的に20%GDPを増加させるといっている。要約がこの記事



21 June 2015

英国Diverted Profits Taxの運用について、座談会が出ていた

78 Tax Notes Int'l 880 (June 8, 2015)である。2月9日刊行の議論に続き、E&Yのtax teamが、Tax Analysts記者の鋭い問いに簡潔に答えていた。2月9日の議論はドラフト段階のものだったが、4月からDiverted Profits Tax(DPT)が施行されたのをうけて、今回は、現場の運用がどうなってきているかを、かなり具体的に論じている。

含蓄が深い(深すぎる)点も多いが、おおむね理解できたところでは、たとえば、次のようなことが印象に残る。
  • 英国企業は主にcompliance issueとみており、米国企業は実際に課税リスクを伴う重大なことがらととらえて分析をはじめている。
  • 新しくAPAを結びたいと考える企業が増加。
  • Lower-risk populationと、higher-risk populationとで、HMRCに対してnotificationをするかどうかの対応が分かれる。
  • HMRCのLarge business unitの中のdigital economy teamがdiverted profits teamと改名して、賦課をはじめている。
  • 取引の再構築(recharacterization)に関するスタンスが、BEPS actions 8-10と、HMRCとで異なり、HMRCは租税が主なドライバーだったかにより強く着目。
  • 米国でこの税が外国税額控除の対象になるかについては、a little bit of yes and noという微妙な答え。租税条約で明記するか、米国国内法のあてはめか、いずれかの道があるところ、後者は複雑で米国財務省が公にコメントを出していない。
  • 米国でCFC Rule(Subpart F)を発動すれば、英国のDPTから税額控除できるが、その期間が短く、timing mismatchが生ずるおそれあり。
  • DPTの条約適合性に関してlegal challengesが生ずるかどうかについては、あまり生じないのではないか、なぜならHMRCが適用対象を狭くとってvery significant profits in tax havensの事案に限る運用をするのではないか、という推測。
  • 米国企業会計上、引当金を積むことになるか、uncertain tax positionとして扱うか、という論点。
  • 豪のように他の国もDPT類似の税を入れていくと、BEPS Projectの重要な構成要素であるマルチラテラルな対応が失敗したことになるかについて、1)low-taxed, low-substance situationを特定して課税権を配分する英国のようなアプローチと、2)IP-rich value chainsの利益を分割するやり方を抜本的に改革するアプローチがあり、1)のアプローチをとっただけで失敗といえるかどうかはわからない、という意見。
 UK Government annoucement

17 June 2015

最判平成27年5月26日 住民税の賦課決定の期間制限

この判決が、地方住民税の賦課決定ができる期間制限について、新たな判断を示していた。

個人住民税所得割は、国税としての所得税に準拠しており、前年の所得を対象として課されることになっている。そのため、所得税のほうで変動が生ずると、住民税にも影響が及ぶ。

この事件では、飯塚市長が住民税所得割を増加する賦課決定をした。そこに至る経過は、おおむね次のようなものだった。
  • 平成16年分から平成18年分までの住民税(地方税)が問題
  • 平成15年分から平成17年分までの所得税(国税)につき、納税者が確定申告
  • 平成19年3月14日 所得税につき、飯塚税務署長が更正
  • 平成20年4月22日 国税不服審判所の裁決(更正を一部取消)
  • 平成21年10月6日 前訴判決(納税者の請求を棄却)
その後、平成22年8月23日に、飯塚市長が賦課決定をしたわけである。法定納期限から3年が過ぎていたし、上記の更正からみても2年がすぎていた。しかし、前訴判決からは2年以内だった。

最高裁は次の解釈を示したうえで、飯塚市長の賦課決定が期間制限後にされたもので違法であるとした。
個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の課税標準は,前年の所得について算定した総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額とされ(地方税法32条1項,313条1項),これらの総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額は,原則として所得税法における計算の例によって算定するものとされ(同法32条2項,313条2項),所得税の課税標準(所得税法22条1項)を基準としていることから,所得税の課税標準に異動があったときは,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべきこととなる。しかるところ,所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等が地方税法17条の5の規定に定める期間を経過した後にされることもあり得ることから,同法17条の6第3項は,課税の適正を期するため,上記の所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等がされる一定の場合においてすべきこととなる個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定について,それぞれの場合につき定められた一定の日の翌日から起算して2年間においてもすることができる旨を定めたものであると解するのが相当である。
したがって,個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定の期間制限につき,その特例を定める同項3号にいう所得税に係る不服申立て又は訴えについての決定,裁決又は判決があった場合とは,当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべき必要を生じさせる決定,裁決又は判決があった場合をいうものと解するのが相当である。

下線を付したところを本件にあてはめると、前訴判決は「当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ」るものではない。だから、前訴判決を起点として期間制限の特例2年をカウントすることはできず、飯塚市長の賦課決定は期間制限にひっかかるということになる。

今後、住民税の執行にあたる地方自治体としては、まず税務署が所得税の更正をしたらそこから2年内に賦課決定をし、その後納税者が所得税を争って課税標準に異動が生じたらその都度異動後の状態にあわせて賦課決定をしていく、という対応が必要になりそうである。

14 June 2015

最判平成27年6月12日(TK航空機リース雑所得区分事件)、「正当な理由」ありと判断

裁判所ウェブサイトのここ。匿名組合(TK)に関する所得税基本通達が、平成17年12月16日付けで改正された。最高裁は、このことをもって
所得区分に関する課税庁の公的見解は変更されたもの
と評価したうえで、平成15年分と16年分につき旧通達に従って不動産所得として申告していたことにつき、
真にA[原告・納税者]の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になる
として、国税通則法65条4項の「正当な理由」ありと結論した。東京高判平成24年7月19日税務訴訟資料262号順号12204のこの点に関する判断を覆したものである。通達改正が経済活動に及ぼすかく乱効果を小さくするために必要な多方面の努力のひとつを、最高裁として果たしたものといえよう(控訴審の判批・税研178号46頁、49頁を参照)。

なお、この最高裁判決は所得区分につき次のように判示しており、TK課税に関する判例として意義がある。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は,当該契約において,匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており,匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し,それ以外の場合には,当該事業の内容にかかわらず,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,雑所得に該当するものと解するのが相当である。前記・・・の取扱いを定める新通達は,その内容に照らし,これと同旨をいうものと解される。

04 June 2015

消費税法の国際的側面について、日本の論説が公表されていた

国境を越えた役務の提供について、平成27年度税制改正で、消費税法が改正された。これについて、岡村忠生「国境を越えた役務の提供と消費課税」法学教室417号38頁(2015年6月)が公表されていた。

日本の消費税法は、前段階で課税が行われていない仕入れについて、仕入税額控除を認めてきた。このことを、「税制の重大な脆弱性であり、日本の消費税を不完全で遅れたものとしてきた(40頁)」と評価したうえで、改正の内容と射程を、新法令のすみずみに眼を配って論じている。解釈論として残された重要な問題として、「役務の提供が行われた場所(法4条3項2号)」とは何かという「根本的なもの(43頁)」があると指摘。さらに、「消費」という概念を明らかにすることが、「学術研究に課された困難な課題である(43頁)」と述べて締めくくる。

なお、今回の税制改正については、時期を前後して、国税庁が次のガイダンスを公表した。


国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等関係
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