26 March 2015

もうひとつのシュンペーター像

池上岳彦編『現代財政を学ぶ』(有斐閣2015年)36頁のコラム「もうひとつのシュンペーター像」は、想像できないほど人間くさいシュンペーターの日記を紹介している。母親と妻アンナに先立たれた彼は、毎日、彼女らへの祈りの言葉を丸で囲んで書いたという。「私を助けたまえ。」「数学ができない、助けてくれ。」「自分はバカになったようだ、助けてくれ。」などなど。

このコラムには、塩野谷祐一「シュンペーターの野心―その人生と学問」という2007年の講演のリンクが付されている。これである。読んでみると、これがまたおもしろい。国際ワークショップもあったようだ。

それにしても、自分の日記がこうして広く人々の眼に触れることを、シュンペーター本人は予想していたのだろうか。

21 March 2015

PPL Corp. & Subsidiaries v. Commissioner, 133 S.Ct.1897 (2013)

外国税額控除に関する米国連邦最高裁判所の判決。英国で保守党政権が国有企業を民営化したのち、1997年に政権をとった労働党がwindfall taxを立法化して、1回限りの課税を行った。これが、米国法上、外国税額控除の対象となるかどうかが争われた。米国連邦最高裁は、このwindfall taxは古典的な超過利潤税であるとして、外国税額控除を認めた。

浅妻教授の判例解説がアメリカ法2014-1に出ている。日本におけるガーンジー島事件最高裁判決との比較もされている。この公開ページでは、アメリカ法に出ていない部分も読め、リンクも張ってくれている。

この事件の存在を念頭におくと、2014年に英国がDiverted Profits Taxの導入をアナウンスした直後に、同税が米国で外国税額控除の対象となるかどうかが議論されたことも、きわめて自然なことに見える。対象となると論ずることで、BEPS行動計画へのコミットメントを強めようという力学が働いているのが、歴史の現時点におけるおもしろい磁場である。

20 March 2015

インドでSony事件、納税者勝訴

現地会社の広告宣伝費がbright line testの水準を超過しているとして、移転価格課税。
裁判所はこれを取り消した。Sonyだけでなく、DaikinやHeier, Reebok, Canonなどの事件も併合したcommon judgement。
ここから読める。

HIGH COURT OF DELHI AT NEW DELHI
IITA No. 16/2014
Reserved on: 5th November, 2014
Date of Decision: 16th March, 2015

18 March 2015

GTTCとVogel on DTC

租税条約の注釈が続々と新しくなっている。IBFDのオンラインでGlobal Tax Treaty Commentariesが出てきたし、Klaus Vogel on Double Taxation Conventionsが第4版になった。いずれも国際的な共同作業であるところが、時代を感じさせる。BEPSプロジェクト後の租税条約の世界はかなり変化するだろうが、行く末について考えていくには、現時点までの到達点を知ることがまず必要。

17 March 2015

インドビジネスと移転価格

財務総研の2014年度インドワークショップで、2014年12月3日、双日オートモーティブエンジニアリング代表取締役社長が報告。その議事録を読むと、インドにおける移転価格課税の深刻さをとりあげており、2013年3月末から事前確認制度(APA)が導入されたことへの期待が語られていた。

16 March 2015

東京高判平成26年4月24日 リグは「船舶」にあたるか

海洋掘削等の事業を行う内国法人が、パナマ子会社から、海洋掘削の作業の用に供するリグの貸付けを受け、その対価を支払った。これが日本の所得税法上、「内国法人に対する船舶・・・の貸付けによる対価」(161条3号)として源泉徴収の対象となるかどうかが争われた。東京地裁、そしてその控訴審である東京高裁は、ともに、この3号にいう国内源泉所得にあたるとして、源泉徴収を肯定。

原告は、本件リグは船舶ではなく、減価償却資産としての「機械及び装置」(161条7号ハ)にあたり、専ら国外において行う業務の用に供されていたから,国内源泉所得にあたらないと主張していた。裁判所が「機械及び装置」該当性を論じなかった理由として、浅妻章如・判批・ジュリスト1477号(2015年3月)8頁、9頁は、「船舶」に関する規定は「機械及び装置」に関する規定の特則である
という構造が判旨の前提にあると指摘する。

国際運輸業で船舶を運航する事業については、古くから相互主義免税のルールが発展してきた。これに対し、所得税法上の源泉徴収では、船舶の所在地や業務関連性を問わず、貸付けを受ける者が内国法人であるかどうかに着目して国内源泉所得に取り込んでいることに気づかされる。

15 March 2015

大阪地判平成25年6月18日 問屋と消費税

この判決である(確定)。原告は、大阪市中央卸売市場で牛枝肉の卸売業を営んでいた。原告は、出荷者から販売の委託を受け、せり売りで買受人を決定する。原告は卸売金額の3.5%の委託手数料を受け取るにすぎず、残りは出荷者の取り分になる。

原告の立場が商法上の問屋(商法551条)であることに、当事者間で争いがない。

出荷者 ―――原告
(委託者)    (問屋)
           ↓
          買受人
          (相手方)

すなわち、原告と相手方との外部関係は、問屋が売買契約の当事者となる。委託者と原告との内部関係は、委任関係となる。

大阪地裁は、消費税法13条につき、
資産の譲渡等を行った者の実質判定は、その法的実質によるべきものと解される(このように解すべきことは、当事者間に争いがない。)。
としたうえで、原告が牛枝肉の譲渡を行ったものと判断した。その帰結として、消費税法39条1項の貸し倒れによる消費税額の控除の適用を、原告に対して認めた。その際に、次の点を判断要素としてあげている。
  • 原告が売買代金回収リスクを負うこと
  • 売買契約の締結に出荷者が特段の関与をしていないこと
  • 買受人に対する瑕疵担保責任を負うのも原告であること
この事件について、仲谷栄一郎=中島真嗣「問屋(コミッショネア)の税務問題(上)」NBL1029号(2014年7月)70頁、76頁は、仕入税額控除がどうなるか、という問題を提示している。この点、西山由美・判批・税研178号(2014年11月)227頁、229頁は、ドイツ売上税法3条3項が、委託者と問屋の間で委託物品販売の課税取引をみなす立法的解決を講じていること、連続取引について中間の取引を省略するルールもあること、を紹介する。日本法はそのような特則を欠くから、まずは解釈論によって、消費税法の取引の鎖をつなげていくことが課題である。その意味で、信託・遺産・組合について「『私法上の帰属』の精確な考察」に立脚した課税要件規定の設定と適用が不可欠であるという主張(藤谷武史「所得課税における法的帰属と経済的帰属の関係・再考」金子宏ほか編『租税法と市場』(2014年)184頁、200頁)は、問屋についても妥当する。

14 March 2015

ドイツ租税法における外国事業体の取り扱い

2015年1月刊行のこの論文が、ウェブサイトにアップされていた。この論文のドイツ法分析によると、ドイツ法人税法において納税義務を負う形態の類型(Typ)と比較(vergleichen)できる外国(=ドイツ以外の国)の形態は、法人税の納税義務を負う形態として扱う。この判断枠組を「類型比較(Typenvergleich)」という。この枠組が判例で採用され、散発的な批判を招きながらも、実務および学説によって支持されるに至っているという。本論文は、この様子を描き出しており、参考になる。

13 March 2015

東京地判平成25年5月30日判例時報2208号6頁 非永住者にあたるとした例

川口市と米国東部をいったりきたりしていた個人につき、日本に住所がある(=居住者である)とし、さらに、非永住者であると認定した事例。

本件の当時、非永住者の定義は、
居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。
とされていた(所得税法2条1項4号、下線は引用者による)。東京地裁は、本人の滞在日数や、家族の居住状況、米国永住権の取得、父の墓の米国への移築など、本件にあらわれた事実を総合考慮して、納税者が日本国内に永住する意思を有していなかったと認定した。

平成18年度税制改正で、非永住者の定義は次のように変わり、永住意思が要件でなくなった。
居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。
したがって、現在では、上の争点は問題にならない。また、本件の納税者は日本国籍を有していたから、現在のルールでは、非永住者にあたる余地がない。こうして、本判決の意義に現在における意義としては、「もっぱら内心の意思が問題となる場合において、それを多数の外形的事実から推認することによって認定するという一般的な判定手法を示した事例」 (宮崎裕子・判批・税研178号175頁、177頁)ということになろう。

なお、本判決は、他の争点についても判示している。たとえば、住所認定の手法として、従来の判例を踏襲している。また、オルゴールの譲渡から生ずる所得が「国内にある資産の譲渡により生ずる所得」として国内源泉所得にあたるか、といった点も争われ、国の立証が足りないとしてこれにあたらないしている。判決へのリンク

12 March 2015

Aloe Vera事件がまだ続いていた

1996年の日米合同調査に端を発する米国IRSに対する損害賠償請求事件。2007年2月2日の判決で終局したわけではなかった。その後、控訴→差戻し→第二次控訴→差戻しをへて、2015年2月10日に次の判決がでていた。Aloe Vera of Am., Inc. v. United States, No. CV-99-01794-PHX-JAT, 2015 U.S. Dist. LEXIS 16605 (D. Ariz. Feb. 10, 2015)である。

米国IRSが日本の国税庁に同時調査の提案書を送った中で、1991年と1992年に約32ミリオンドルの未申告米国所得があるとの推定を記載していた。アリゾナ地裁のTeilborg裁判官は、この点が虚偽であり、米国は虚偽であることを知りつつ情報を開示したとして、1000ドルの法定額による損害賠償を認めた。

事実認定の記載が詳細であり、日本側で1997年10月にメディアで報道されたことや、その後一時的にIRSが日本との情報交換を停止したこと、国税庁が租税条約情報の漏洩防止策を講じたのちにIRSが停止を解除したことなども、判決文に記されている。

11 March 2015

最判平成27年3月10日 外れ馬券事件

刑事事件で、第三小法廷が検察官の上告を棄却した。「本件事実関係の下では」という限定つきで、馬券の払戻金を雑所得に区分し、外れ馬券を含むすべての馬券の購入代金を必要経費として控除を認めた。

事案は、次のようなものである。
被告人は,毎週土日に開催される中央競馬の全ての競馬場のほとんどのレースについて,数年以上にわたって大量かつ網羅的に,一日当たり数百万円から数千万円,一年当たり10億円前後の馬券を購入し続けていた。被告人は,このような購入の態様をとることにより,当たり馬券の発生に関する偶発的要素を可能な限り減殺しようとするとともに,購入した個々の馬券を的中させて払戻金を得ようとするのではなく,長期的に見て,当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の合計額との差額を利益とすることを意図し,実際に本件の公訴事実とされた平成19年から平成21年までの3年間は,平成19年に約1億円,平成20年に約2600万円,平成21年に約1300万円の利益を上げていた。
第三小法廷は、所得税法34条1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」にあたるかどうかの判断基準として、
営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
と判示した。 これを本件の事案にあてはめて、上告棄却とした。

大谷裁判官の意見があり、ふたつの意味で興味深い。
  • 「外れ馬券の購入代金を必要経費として控除できるとした原判決には法令違反がある」といいながら、「本件事案の特殊性に鑑み、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない」として、法廷意見と結論を同じくしている。この意見によると、本判決は「事案の特殊性」による救済判決という位置づけになりそうである。
  • 立法論として、「課税対象を明確にして妥当な税率を課すなどの特例措置を設けることも必要と思われる」と指摘している。きちんと立法論をするためには、課税のみならず、公営ギャンブルの収支に関する財政法的な考察が必要であろう。馬券配当の非課税化を訴える業界の声があることにも、注意が必要である。
判決当日に広く報道されており、これから多くの評釈が出てくるだろう。


【2015年3月12日追記】
国税庁が「最高裁判所判決(馬券の払戻金に係る課税)の概要等について」で、所得税基本通達34-1を改正する予定であるとアナウンス。

10 March 2015

東京地判平成25年11月19日判例時報2219号33頁 外国税額控除の手続要件

所得税法95条2項による控除限度額の繰越使用が、手続要件を満たさないとして否定された事例。原告は個人納税者であり、デラウェア州法に基づくLPSを組成する旨の契約を締結して、同契約に基づく分配金の受領や持分の譲渡について、外国所得税を納付していた。
  • 平成19年分の所得税の確定申告時に、控除限度額に余裕があった。
  • 平成20年分の所得税の確定申告には、外国税額控除に関する明細書の添付がなかった。
  • 平成21年分の所得税の確定申告で、平成21年分の控除限度超過額が生じたので、平成19年分の国税の控除余裕額を繰越使用した。
渋谷税務署長は、平成20年分の所得税の確定申告書に所得税法95条6項所定の事項の記載等がなかったから、同項の手続要件を満たしておらず、平成21年分の所得税について95条2項に基づく外国税額控除ができないとして、更正。納税者がこれを争ったのが本件である。

東京地裁は、繰越を認めなかった。判決文は裁判所ウェブサイトで読むことができるが、手続要件の趣旨について、次のように述べる。
所得税法95条6項は,同条2項の規定は,繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年以後の各年について当該各年の控除限度額及び当該各年において納付することとなった外国所得税の額を記載した確定申告書を提出した場合に限り適用するものとしているところ,当該要件は,・・・・・同条2項に基づき控除し得る額が前3年以内の各年の控除限度額及び当該各年において納付することとなった外国所得税の額のそれぞれに基づいて計算されることを踏まえて,その計算の基礎となる控除限度額及び外国所得税の額を当該各年分の確定申告書に記載する方法で逐次明らかにさせておくとともに,納税者に従前の控除余裕額を翌年以降の繰越使用の対象とする意思があることを各年分の確定申告書上に明らかにさせることよって,税額の計算の安定を確保し,もって租税法律関係の明確化を図ったものと解される。
これをうけて、6項の解釈として、次のように判示する(下線は引用者による)。
そうすると,所得税法95条6項にいう「各年」とは,「繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年」,すなわち,同条2項に基づく控除を受けようとする年の前年以前3年以内であって同法施行令224条1項に基づきその年の控除限度超過額に充てられることとなる国税の控除余裕額の存在する年のうち最も古い年を始まりとして,それ以後同法95条2項に基づく控除を受けようとする年までの各年を意味するものと解すべきである。また,このような解釈は,「各年」につき開始時点以外には明確な限定を付していない同項の文理に照らしても自然なものということができる。

つまり、「各年」とあるのは、平成19年だけでなく、平成20年も意味するというのである。これを本件にあてはめて、次のように結論した。
原告は,平成20年分確定申告書には,その添付書類を含めて,同年の控除限度額及び同年において納付することとなった外国所得税の額を記載していないのであるから(前記前提事実(2)ア),同条6項所定の同条2項の適用要件を満たしたものということはできない。
東京高判平成26年3月26日で、控訴棄却。

本件の係争年分のあとになるが、平成23年法律114号による改正で、当初申告要件が廃止された。現在の所得税法95条1項には5項に手続要件があり、確定申告書だけでなく、修正申告書または更正請求書で書類添付をすれば足りる。したがって、現行法の下では、平成21年分の確定申告をする時点で、あわせて、平成20年分につき修正申告か更正請求をしてそこで記載と書類添付を行う、という形での追完が可能であろうか。

09 March 2015

口座情報透明化の抜け穴

2015年2月28日付のThe Economist(印刷版)で、Tax evasion: Leaks on tapと題する記事が載った。米国FATCAに続くOECDの共通報告基準(Common Reporting Standard, CRS)の進展をカバーするものであるが、抜け穴を利用する例も報告している。銀行口座が報告の対象になるのなら、それ以外の金融商品に転換する、という企てである。すでに、米伊でprivate placement life insuranceなる商品への調査がはじまっているという。

08 March 2015

東京高判平成25年3月14日訟月59巻12号3217頁 法人税 事前確定届出給与の非該当例

1.事案の概要

平成20年11月26日の株主総会で、年間合計8000万円の範囲内で、取締役会に一任。取締役会は、
  • 代表取締役Aについて、各月180万円、冬季賞与500万円、夏季賞与500万円
  • 取締役Bについて、各月140万円、冬季賞与200万円、夏季賞与200万
と決めた。12月22日に、事前確定届出給与の届出。職務執行期間は平成20年11月27日から平成21年11月26日まで。

ところがその後、平成21年7月6日の臨時株主総会で、業績悪化を理由に夏季賞与の減額を次のとおり決議。
  • Aについて、夏季賞与を250万円
  • Bについて、夏季賞与を100万円
としたわけである。会社がこの減額について法人税法施行令69条3項の変更届出をしないまま、冬季賞与は法人税法34条1項2号に該当するとして損金算入の確定申告をした。川崎北税務署長が、損金不算入とする更正。これを争ったのが本件である。

東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁、請求棄却。会社が控訴したが、東京高裁も原審を引用して控訴棄却。確定。

2.裁判所の判示

東京地裁は一般論として、次のようにいう(下線は引用者による)。
内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に,当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは,特別の事情がない限り個々の支給ごとに判定すべきものではなく,当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り,当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには,当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である。
そして、本件について、冬季賞与は事前確定届出給与に該当しないとした。また、納税者の主張に応答する中で、職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の対価を個別的に定めたものであると会することができるなどの「特別の事情」は、本件では認められないと述べている。

3.ふたつの理由づけ

東京地裁は上記の一般論に続く部分で、一般論を支えるふたつの理由づけを示す。
  • 株主総会の決議の趣旨として、全期間を一体的に定めたと解されること
  • もし個々の支給ごとに判定すべきものとすれば、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておき、その後、個々の支給を事前の定めのとおりにするか否かを選択して損金の額をほしいままに決定するなどの弊害が生ずるおそれがないということができないこと
後者の理由は、一般論を導き出すための論証としてどのくらい強いものだろうか。業績悪化事由があれば減額を認めるのがポリシーである以上、実体面で濫用があったというのではなく、所定の手続を履行しなかったことがまずかった、ということであろうか。

これに対し、前者の理由をつきつめていくと、決議の内容を工夫することで、事前の観点から経営者報酬を合理化しインセンティブを引き出す、という課題に、法人税法のほうから接近する道が見えてくるようにも思われる。