29 June 2014

IMFのスタッフが、「国際法人課税のスピルオーバー」を公表していた

1.BEPSプロジェクトに関係して、IMFもまとまった文書を出すといわれてきたが、すでにこのサイトで公表されていた。

2.読んでみると、BEPSという言葉の代わりに、スピルオーバーという汎用性の高いコンセプトを用いている。すなわち、スピルオーバーとして

  • 実物・金融フローへの影響
  • 投資その他の実際の経済活動とペーパー上の利益移転の両方を含む法人課税ベースへの影響(base spillover)
  • 各国の税率設定や優遇措置導入などへの影響(strategic spillover)
  • 世界価格への影響
を考慮して(パラ14)、その大きさを計測し、それらがかなり大きいこと、そして、途上国にとって重要であることを示す(パラ19から27)。税収減が必ずしも直接に厚生減を示すわけでないことを付言する(パラ28)ことも、忘れていない。

3.この文書の特色は、IMFの技術協力活動の経験をふまえ、途上国目線にたっていることである。続くくだりでは、途上国にとっての問題領域として

  • 条約漁り(租税条約締結の得失をよく検討すべきこと、締結する場合にはLOB条項で条約漁りに対処すべきこと)
  • キャピタルゲイン(インドのVodafone事件で有名になった間接譲渡の取り扱い、特に天然資源がらみで問題になる)
  • 利子費用控除
  • 移転価格(途上国にcapacity buildingが必要であること、比較可能性検証のために公開データを改善すべきこと)
について詳述している(パラ33から56)。

4.スピルオーバーへの対処策について、正直に困難を指摘するところは、良心的だと思う。対処策として

  • 最低課税(minimum tax)
  • 全世界課税の要素を強化
  • 定式分配(formulary apportionment)
  • 独立企業原則との整合性を考慮した定式的プロフィット・スプリット(formulary profit split)
  • 仕向地主義法人課税
を検討している(パラ57-74)。そのうえで、各国間の相互調整が難しいことを指摘する(パラ75から79)。スタッフ・ペーパーであって、IMFの公式見解ではないぶん、いいたいことがよりハッキリといえるのかもしれない。


01 June 2014

大阪高判平成25・1・18判例時報2203・25 更正理由付記を行動経済学から観る

財団法人東大阪市環境保全公社が受け取ったし尿収集運搬業務などの委託料につき、法人税法上の収益事業性の有無が実体面の争点。更正の理由は、
「貴法人が東大阪市と締結した契約に基づき受ける委託料および・・・受託料並びに・・・補助金は、法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当します。」
というものであった。

大阪高裁(紙浦健二裁判長)は、地裁判決を覆し、この理由付記が不十分であるとして、更正を取り消した。最判昭和60年4月23日の枠組みによりつつ、帳簿上の記載自体を否定することなしにされた更正であって、「請負業」に関する法人税施行令と実費弁償通達(法人税基本通達15-1-28)に関する判断を経る必要があるところ、判断過程についての記載が一切ないとする。高裁段階で確定。

本件で、委託料が実費弁償かどうかを中心に税務調査を行っていたのであれば、更正を行うに際してその旨を一言付記することは、現場の税務職員にとってもそれほど難しいことではないのではなかろうか。

一般に、理由付記の機能としては、最高裁のいう①恣意抑制機能と②不服申立便宜機能のほかに、学説が③相手方に対する説得機能と④決定過程公開機能をあげてきた。

この③については、英米における行動経済学の最近の実験結果の中にも、これを支持しそうな材料がある。たとえば、この記事の紹介によると、

  • 滞納者に対するレターに「90%が期日前納付であり滞納は少数である」旨を記すと、5.1%納付率があがった
  • 税金の使い道について意見を述べる機会を設けると、コンプライアンスが15%あがった
といった例があるという。応答的規制(responsive regulation)の考え方からすると、理由付記も、納税者の納得を得るためのようとする行政努力の一環としてとらえるべきであろう。