19 June 2011

大阪高判平成22・5・20(相続税で更正の請求を認めなかった例)

夫の死亡により第一次相続→妻の死亡により第二次相続→夫の兄弟グループと妻の甥(姪?)グループの間の相続争いにかかる別件京都訴訟の判決確定→甥グループによる別件大阪訴訟の提起→期限後申告→更正処分→別件大阪訴訟で和解→審査請求の取り下げ→更正の請求,という経緯。

大阪高裁は,一般論として,「相続税法55条,32条1号にいう『当該財産の分割』とは,民法906条の遺産分割を指す」と解した。そして,この一般論を本件にあてはめ,本件大阪訴訟和解は,夫および妻の「各遺産をめぐる一連の法的紛争を最終的に解決することを目的として」,兄弟グループと甥グループとの間の「権利義務関係を個別化しないでその一切を,将来に向かって不可分的かつ全体的に変更し確定させたものであった」とみて,この和解は民法906条にいう遺産分割にあたらず,したがって相続税法55条,32条1号の「当該財産の分割」にあたらない,として,更正の請求を認めなかった。

この判決は,すでに分割確定済みの権利義務関係を大阪訴訟和解で全体的に変更したというが,そうだとすれば,甥グループから兄弟グループに支払った解決金4000万円について贈与の問題が生ずるのではないか。逆に,判決の見方と異なり,大阪訴訟和解によっても遺産は未分割のままだったとすれば,これから新しく権利義務関係を個別化して相続人間で分割すれば,そこから起算して4月,更正の請求ができることになる。

14 June 2011

最判平成22・7・6判例時報2091・44(自動車税の減免要件にあたらないとされた事例)

2001年1月,Xは,乙山塾情報宣伝局長の肩書を有するAの自宅に呼ばれた上,X名義で自動車ローンを組んで自動車を購入しこれをAに貸与するよう要求されるとともに,Aから「俺は足がない。どうしてくれるんだ。次はないぞ。」と脅迫されたため,やむなくこれを承諾し,同年2月,Aの指示どおり,その指定した自動車について信販会社との間で自動車ローン契約を締結し,購入した自動車をそのままAに引き渡した。2003年1月,XはAを相手に自動車の引渡を求める訴えを提起し,同年8月に請求が認容されて確定した。だが,Aの住所地が空き家となっていたため,同年10月に執行不能により動産執行は終了した。

2007年1月,Xは,県税事務所長に対し,2005年度と2006年度の自動車税(各3万7500円)の減免を申請した。適用が争われた愛知県税条例72条は,「天災その他特別の事情」により被害を受けた者のうち,必要があると認められるものに対し,自動車税を減免することができると規定している。

最高裁は,この規定の解釈として,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」と解し,本件のXはAに対し自動車を貸与することを承諾していたから,これに該当しないと判断し,減免を認めなかった。

上の解釈を導き出すロジックは,徴収の猶予について定める地方税法15条1項1号の規定とのバランスによっている。猶予の要件ですら意思によらないことが客観的に明らかな事由を挙げているのであるから,ましてや,自動車税の減免について定める地方税法162条そして本件条例72条については「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らか」であることが必要だ,というのである。

これは,体系的解釈の手法を用いたものである。だが,よく見ると,鉄壁ではない。地方税法15条1項には,5号のように範囲を広げる余地のある規定も入っている。また,地方税法162条は地方自治の観点から条例にこまかな要件設定を委ねた,という読み方も不可能ではない。こうして,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」という解釈論を支える論証過程には,疑問の余地がある。しかも,この解釈のように意思をメルクマールにすると,横領,詐欺や錯誤など,限界事例についてかなり恣意的な線引きを強いられることになってしまう。

もっとも,事案の解決という観点からは,最高裁の結論を支える要素が事実関係の中にあるかもしれない。原審の確定した事実の中に,いろいろと不可解な点があるからである。2003年に執行不能となってから,2007年に減免を申請するまでの間,Xは何をしていただろうのか。もっとはやく,自分が自動車の所有者でないことを確定するための何らかの手続をとれなかったものだろうか。

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(以下は2011年11月5日追加)
上の点については,「ナンバープレートを返してもらえなければ廃車にできない」旨の教示を得た。それ自体が変な扱いだし,「私の名義で登録ファイルに登録してありますが実は所有者ではありません」として争えなかったのか。XがAに威迫されつづけており,そのような自助努力を期待しえなかった,といった事情があったのだろうか。いちばん知りたい点が,認定されていない。

なお,判旨は「担税力」をいう用語を2回使っている。ひとつは地方税法162条(減免)の趣旨として,いまひとつは地方税法15条(徴収の猶予)の趣旨として。これは,「所得が担税力の標識だ」というような通例の租税政策論上の用法とは異なる。最高裁は,租税徴収との関係でその人に資力がない,ということをいいたかったのだろう。

07 June 2011

大阪高判平成21・4・22裁判所ホームページ(弁護士会法律相談センターの日当が給与所得でなく事業所得とされた事例)

京都地裁,大阪高裁ともに,給与所得とする納税者の主張を退け,事業所得としている。高裁は,地裁の判示部分を引用しつつ,控訴審としての判断を付加している。その結果,引用部分と付加部分が整合しないとまではいわないまでも,かなりニュアンスの異なる論理が混在してしまった。

高裁の付加部分は,弁護士の法律相談業務の対価は事業所得だ→だから本件のような無料相談業務の日当も特段の事情がなければ事業所得だ,としている。この論理は,無料相談業務が弁護士業に付随する当然のプロボノ活動だと考えれば,自然である。本件の納税者は,事業所得が3000万円を超えており,問題とされた日当が15万円だった。

この論理を採用すると,給与所得を得る勤務弁護士(アソシエート)が同じように無料相談業務の日当を受けとった場合,「事業に付随するから事業所得である」とはいいにくくなる。勤務弁護士については給与所得と処理してはどうか。やや便宜的かもしれないが。

なお,この事件では争われなかったが,雑所得にあたる可能性はないか。