09 April 2024

美術品の課税――再論のために

トラスト未来フォーラム研究叢書の96号「金融取引と課税(6)」藤谷武史・中里実編著 / 2024年に、論文を載せていただいた。

増井良啓「美術品の課税――再論のために」と題するもので、次の3点をしらべてみた(43頁から)。

    • 美術品市場はどのような構造を有しているか

     美術品の財としての性質に特別なところはあるか

    • 美術品をとりまく法制度はどう展開してきたか

文献調査の結果、次のようなことがわかった。

    • 美術品市場には一次市場と二次市場があり、情報の非対称性を克服すべく専門的な仲介者が活動している。美術品購入の動機は、鑑賞、投資、社会的威信などの複合である。

    • 美術品は、代替性が低いという特徴を除けば、譲渡可能な他の私的財と根本的に異なるところはない。美術品が価値財であるとして政府介入を正当化する議論があるが、租税政策上の具体的な提案には必ずしも結びついていない。

    • 美術品を取り巻く法制度の動きの中で、公的な鑑定評価制度を整備するための議論がなされている。

どうして「再論のために」という副題がついているかは、論文の冒頭45ー46頁で説明した。2000年のこれや2001年のこれで残った宿題に、改めてとりくんでみた、というわけ。もっともその結果さらに宿題がふえた、というのが偽らざる実感。


論文集全体の目次は、以下の通り。

目 次

はしがき                        (藤谷武史・中里 実)…ⅰ

[特別寄稿]茶の湯再考                  (濱本英輔)……………… 1

美術品の課税――再論のために              (増井良啓)………………43

寄附者によるチャリティ財産への支配の継続について ─ 研究ノート

                            (藤谷武史)………………69

オーストラリア憲法における「租税」及び財産権保障の対象となる「財産権」の意義

Australian Tape Manufacturers Association v Commonwealth を素材とした序論的考察

                            (渕 圭吾)………………95

人の可動性と租税法――序論的考察            (長戸貴之)…………… 131

追い出し課税等による文化破壊              (浅妻章如)…………… 179

いわゆる mortmain/mainmorte について          (中里 実)…………… 205

累進的な消費課税の提案と課題:耐久消費財の問題<研究ノート>

                            (神山弘行)…………… 231